WED代表の山内があらゆる業界のものづくりのプロたちを招き、彼らの半生や考えを聞き、議論することで、ものづくりをアップデートしていく『CHAKAI』。第三回目のゲストは、4月にお互いの会社のパートナーシップ契約を発表し、プライベートでも山内と仲の良い、アーティストのSKY-HIさん。SKY-HIさんの足跡を聞いた前編に続き、後編ではものづくりで伝えていきたい価値観について議論しました。
host
山内 奏人
WED株式会社 代表取締役
guest
SKY-HI
アーティスト/株式会社BMSG代表取締役CEO
1986年千葉県生まれ。2005年にAAAのメンバーとしてデビューし、同時期からSKY-HIとしてソロでの活動をスタート。現在はラッパー、シンガーソングライター、トラックメイカー、音楽プロヂューサーとしてマルチに活躍。2020年にはマネジメント及び音楽レーベルを手がける株式会社BMSGを設立、ボーイズグループオーディション『THE FIRST』を主催して大きな話題に。

アートもプロダクトも、時代背景込みで生まれるもの
山内:曲をつくる時って、やらなければいけない時に意識的に作ってるの?それとも日常的に思いついたら作ってる?
SKY-HI:言葉を作る人の業の深さなんだけど、身の回りで印象的な出来事があると、「これ曲になるな」って思ってしまうんだよね。日常的に作ってるかと言われるとそうではないんだけど、強くインプレスされることがあった時に、それを音楽にしてしまう傾向にある。それが人間として良いことか分からないから、決められたものを作る方が人間としての負荷は少ない。
山内:全然書けないってことある?僕この3ヶ月くらいスランプだったんだけど。
SKY-HI:納得できずに何回か書き直すことはあるけど、今はそんなにない。昔一回だけ本当に書けない時があって、100回以上書き直して数ヶ月の間一曲だけを書き続けたんだよ。そうやって、セルフ自己否定の繰り返しを短期間で集中的にやったら、書きたいことだけじゃなく書き方のフォームが出来て、何でも書けるようになった。
山内:良い出来事や悪い出来事が起これば起こるほど、良いアウトプットができるって辛くない?
SKY-HI:辛いのよ。何か大きな出来事が起こって「これ曲にできるかもしれない」と思った時に、人間的にどうなんだろうって思ったりするし、曲を作った後に「こんなこと曲にしていいんだろうか」って思ったりするから、健康には良くないよね。逆に、その感覚を無くして絶対的な善性の強いことだけを書くと、アーティストとしては不健康な気がするし。芸能家として然るべきではあると思うんだけど、そのバランスが崩れることが一番怖い。
コンプライアンス社会だけれども、人を傷つける可能性が表現に内包されていることも考えなければいけないタイミングだから、難しいよね。
山内:そうだよね。それこそ太宰治の『人間失格』とか究極形態な訳じゃん。あれが今の社会で許されるのかというと、僕らは許されてほしいと思ってしまうよね。
SKY-HI:結局アートにしろデザインにしろプロダクト全てに言えるのは、時代背景込みで生まれるんなんだよなぁってこと。だからコンプライアンス社会がアートを殺すっていうのも違うと思ってて、コンプライアンス社会だからこそ生まれ得る風刺とかがある気がする。バンクシーだって、路上に落書きするのが違法な時代じゃなかったら今のようなアーティストにはなってないわけじゃん。
山内:それこそ、最近Twitterとかでバズってるのがすごい綺麗な話ばっかりだなぁと思って、どこか寂しさを感じてるんだよね。多様性が許容されてるようで許容されてない感じがする。ネタ的な多様性は許容されていってるけど、思想とか考え方とか、生き方における多様性はむしろ狭まってる気がする。
SKY-HI:非常に思う。アーティストにとっては死活問題だから、その特異性を保つには、現代では極力出どころを絞っていく方がいいだろうなって思うね。本人の心身の健康も含めて。
オープンSNSも、アーティストにとっては不要なものだなと思ってる。本人の宣伝がバズる事なんてないし、宣伝が届く人はそもそも自分で見たり聞いたりしてくれる人だから、それ以上のものになり得ないと考えると、リスクこそあれどプラスはないよ。
生き方の多様性が許容されてないというより、表に出すときのアウトプットが画一化されてないと世の中的にまとまらないなら、わざわざアウトプットする必要ないよなって。
山内:前に、Twitterはバイブス悪いって言ってたよね。
SKY-HI:「フォロワー数は自分のファンの数じゃなくて、自分が転ぶのを待ち望んでる人の数だから」って言われたことがあって、割としっくりきちゃったんだよね。
山内:響くな、それは。

「アーティスト=生き方」不自由を知り尽くしたからこそ自由を伝えていきたい
山内:SKY-HIのアーティスト活動や楽曲で、伝えていきたい価値観ってある?
SKY-HI:最近は自由を伝えたい。オルタナティブとかフリーダムとかに物凄くテンションがある気がする。
山内:それは全ての生き方を肯定するって意味?それとも社会的な自由ってこと?
SKY-HI:両方。自由への執着が強くなっているのは、不自由の存在が大きくなっているからだと認識していて。例えば音楽でも、ちょっと良いなと思うと、次にアーティストのプロフィールやコミュニティを気にして、目で聞いてしまうんだよね。だから作る側もそういうのを意識しちゃったり、無意識的に狙いみたいなのが出ちゃったりして、作り方ですら不自由を感じるんだよね。
好きなはずの音楽なのに、自分でも気づかないうちに不自由に絡め取られていることが多い気がするから、自分は自由な存在であることで、それを訴えていきたいと思う。どれだけ不自由な状況においても、自由を見出すことはできると思うんだよね。ずっと不自由を訴えていた数年前よりアップデートされて、今がすごい自由だと思えるようになったのは、不自由を見尽くしたからだと思う。
山内:『JAPRISON』は、「日本は閉ざされた空間だ」っていう不自由を訴えてるわけじゃん?あれは何がきっかけで生まれたの?
SKY-HI:「日本は別だからね」って言葉を各所で聞きすぎて、閉塞感やべぇなと思って。音楽的な特異性が強くなりすぎたことや、芸能のシステムが長年変わらないことへの閉塞感が、自分には不自由に思えたんだと思う。
あれを作って不自由と向き合い続けたおかげで、自分の中の自由を見つけられた感覚があるので、今聞くとなんか苦しそうだなあって感じる。
山内:アーティストという職業は生き方なんだね。これまでの生き方とかきいてたら、いわゆるレールに乗った人たちからしたらめちゃめちゃ自由に見えると思うんだよ。ただ日高くんからしたら自分はめちゃめちゃ不自由で、周りの人はもっと自由に見えるんだよね。
SKY-HI:BMSG設立以降は、責任の範疇が大きくなったことにより、自由を感じられる時間も多くなった。だから今は、不自由を訴えることから自由を訴える方に変わった気がするね。「自由を感じるということは、不自由を知っているということに尽きる」と思うようになってからは、心がだいぶ楽になった。

自分たちの存在で、“何かの中で生きる”ヒントを与えていく
山内:今後何かやっていきたいことはある?
SKY-HI:社名の由来になってる「be myself」という言葉を組織で体現していきたい。個々の自由を尊重しあった集団でありたいんだよね。個の自由を尊重するだけなら個でいいから。
その上で、学校に馴染めない人に対して、「じゃあ辞めちゃえばいいじゃん」じゃなくて、「馴染めないなりに学校での楽しみ方あるよ」っていうメッセージの出し方をしていきたいなぁと思う。
山内:それもまさに自由不自由の議論だよね。
SKY-HI:そうそう。社会の中で自由になるきっかけを作ることが、アートやエンターテインメントの仕事だと思ってる。「3人集まったら社会」とか言うし、社会から完全に逸脱することは不可能なんだよ。「憂鬱な通学路で音楽聴いたらちょっと気持ちが楽になった」っていう現象を、俺らが存在そのもので作れたらかっこいいと思うんだよね。多様性をアピールするために多国籍なメンバーでグループを作るとかじゃなく、もっとフラットな方法で。
山内:アーティストとしては、逆に尖りにいくことも手段としてはあるよね?例えば、学校が合わないから辞めるっていうのは目立つじゃん。学校で面白いことを見つければ、個の存在としてはハッピーだけど、それがアーティストとしてハッピーかは別の議論じゃない?
SKY-HI:それが、アーティストは何かから抜け出しても絶対に何かの中なの。誰かのイメージの中の自分だったり、職業としての自分だったり、自分が作ったものの中の自分であったり。何かの中からは決して逃れられないから、それから逃れようとするよりも、その全てを許容した上で自分のマインドを自由に導けるためにどうすればいいか考える。
「何か言語化できないけど苦しい」「不自由に感じる」「毎日が面倒くさい」って人に、即時的な自由や快楽じゃなく、次の日からの憂鬱との向き合い方のヒントを与えることを、エンターテインメントでやっていきたいと強く思う。それって、具体的な言葉より存在そのもので証明していく方がかっこいいと思うから、ボーイズグループもメッセージのある人たちにいて欲しいし、それがどんなメッセージでも受け入れる。
山内:うちの会社も新しくて前例のない事業をやってるから、ある意味資本市場との相性の悪さや伝え方の難しさは多かれ少なかれあって。「もう資本市場とか関係ないから自己資本100%でやります」とか「会社化しません」っていうのが今までのロックさだと思うんだけど、うちはオルタナティブロックだから、これをあえて資本関係のもとでやってるんだ。そういう意味ではうちもバイブス一緒だと思うんだよね。
SKY-HI:それそれ!うちも、今までのロックスターだったら「大きな会社とかTVとか知らねえよ!」って感じだと思うんだけど、うちはちゃんと大きな事務所やテレビ局とも仲良くやる。俗的な意味でも大きくなろうとするけど、本質は絶対見失いたくないっていうオルタナティブロック。
山内:僕らのテーマはオルタナティブロックだね。これからも楽しみだな。
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