WED代表の山内があらゆる業界のものづくりのプロたちを招き、彼らの半生や考えを聞き、議論することで、ものづくりをアップデートしていく『CHAKAI』。第二回目のゲストは、株式会社Luup代表取締役社長兼CEOの岡井さん。前編ではLuupを作るまでの経緯から今のLuupらしさについてのお話しを聞き、後編では、お互いの経営やものづくりのこだわりについて、議論しました。
host
山内 奏人
WED株式会社 代表取締役
guest
岡井 大輝
株式会社Luup 代表取締役社長兼CEO
1993年東京都生まれ。2017年東京大学農学部を卒業。戦略系コンサルティングファームにて上場企業のPMI、PEファンドのビジネスDDを主に担当。その後、株式会社Luupを創業。代表取締役社長兼CEOを務める。2019年5月には国内の主要電動キックボード事業者を中心に、新たなマイクロモビリティ技術の社会実装促進を目的とする「マイクロモビリティ推進協議会」を設立し、会長に就任。
電動キックボードの事業は、僕にぴったりだった
山内:第二回のゲストは岡井くんです!よろしくお願いします。
岡井:よろしくお願いします!
山内:岡井くんとはプライベートで温泉に行く仲だけど(笑)。 今日は改めてLuupのことや岡井くんのことについて、普段話さないようなことを聞いていきたいなと思います。まずはLuupを作るに至った経緯について聞いてもいい?
岡井:日本で起業するからには、日本の特徴的な課題である人口減少や高齢化に関するインフラを作ろうと思ったのが最初の方向性かなぁ。
今のところ、GDPが大きい国で人口が減ってる国は日本くらいしかないけど、今後世界中で増えていくはずなんだよね。それで、10-30年後の日本の課題は30-50年後の世界の課題だということを前提にして、日本の根本的な課題である医療・介護・まちづくりのどれかにフォーカスしようと思ったんだよ。
山内:なるほど。
岡井:僕は、新しい大きな事業って文化的トレンドか技術的トレンドの上にしか生まれないと思ってるんだよね。技術的トレンドを見た時に、スマホシフトが終焉を迎える中、これからその波(半導体やバッテリーの技術革新の波)が来る領域がモビリティだった。
それで、これからモビリティ業界にはスマホシフトと同じようなデバイスシフトが起こるという、技術的なトレンドに乗っかろうとしたのがこの事業を選んだ理由かな。
山内:岡井くんの面白いところは、あえて超ハイリスクハイリターンな事業を選ぶとこだよね。すごく頭が良いしコンサルの経験もあるから、言ってしまえばもっと楽に稼げそうなB向けの事業を選びそうなのに。言葉を選ばずに言うと、Luupの事業は、準備がめちゃくちゃ大変な上に、仕様や価格設定を間違えてしまったら、全然儲からなくなっちゃうと思うんだよね。
岡井:ちょっと賢いんだけど、ちょっと馬鹿なんだよね(笑)。電動キックボードの事業も、大きい領域だけどハードルが高いので、少し賢くて失敗を厭わない人がやる事業だと思ってて、まさに僕がやるのにちょうど良かったんだよね。熟練者は不確実性高すぎて絶対やらないし、だからといって大学生では絶対にできない。
僕はいつも、初めは理詰めで考えるんだけど、最後の最後はは一気にジャンプする。ロジックだけでは、一定みんな同じところまでたどり着けちゃうから、そのラインをどれだけ飛び越えられるかだと思うんだよね。生存戦略としても、理詰めで考えた上で自分ごとベットして勝負していきたいね。
山内:良い意味ですごいクレイジーだよね。
岡井:そうしないと勝てないっていう確信がある。今持ってるカードの中から自分より強い相手を倒すためには、9割負けるっていう戦いをしないといけないと思ってるんだよね。リスクはあるけど、周りの全員に、ちゃんとしたものを、ちゃんと説明して、ちゃんと全力でやっていれば、本質的な失敗はしないと思う。
街中を駅前化するインフラを作るため、最適な選択をし続ける
山内:Luupは何を意識して開発していってるの?完全にインフラになることを目指してるとは思うんだけど、とはいえエンタメ性がないとユーザーに楽しんでもらえないと思うし。
岡井:僕らの事業は利害関係者が多いから、可能な限りみんなの希望を抽象化して作るように意識してるかな。エンタメ性を重視してLUUPユーザーが楽しいと思う機能を開発しても、自動車のドライバーは危ないと思うかもしれない。
その他にも不動産オーナーや町内会、自治体、ディベロッパーなどの関係者全員が、「Luupがあったからよくなった」と思うものを作らないといけないんだよね。そして、サービスが目指したい機能は後付けではなく根底にしないと意味がないと思ってるから、それをサービスの根底にビルトインするようにしてるかな。
山内:分かるな。僕らも「ONE」がリリース直後にサービス停止して、今後のサービスのあり方を見直した時、レシートの買取機能だけは絶対に残そうと思ったの。なぜなら、今のユーザーがみんな欲しがってたものだし、僕らが本当に提供したいものだったから。だから今聞いていて、そういうサービス設計は少し似てるんだろうなと思う。
岡井:僕らが作っているのはソフトウェアではなくLuupという座組みなんだよねー。それが僕らのプロダクトであり、僕の役割は世間一般でいうPdMに近い。だから、可能な限りみんなにフラットに、バランス良くプロダクトを作りこむことが、僕がパフォーマンスを発揮できることかなって。
山内:Luupってムーブメントだよね。大きな時代の流れを作り出して、公開して、やりきるってことだよね。
岡井:起業家には帝国を築くタイプと革命を起こすタイプの2タイプあると思ってるんだけど、僕は後者なんだよね。イノベーションのジレンマ的に大手ができないことがあるからこそ、自分たちに存在価値があると思ってて。だから、僕らがやるべきことは3つ。
1つ目は世間一般で言う「ロビイング」。大手は構造上言いづらいことがあると思うからね。2つ目がソフトウェアであり、特にアルゴリズム化。プロダクトって複雑性が高くなるものほど少人数で作った方がいいと言われてるけど、僕らが乗車前のユーザーから取得してるようなデータの設計は、まさに少人数の僕らが作る方が向いてたと思う。3つ目が地元との調整。サービスをスタートする前に話すからこそ、みんな味方になってくれるんだよね。
山内:そうやって革命を起こしていくなかで、Luupらしさって作ってるの?
岡井:ミッションファーストであることがLuupらしさかな。Luupのミッションは、「街中を駅前化するインフラをつくる」ことで、その下にバリューが4つあるんだけど、バリューの最初がミッションファーストなの。ミッションファーストであるために、最適じゃないことは一切しないでほしいと思ってるし、もし僕が最適でないことをしていたら、ミッションと違うよって否定して欲しい。うちではミッションファーストである人順にパフォーマンスが高いし、これは体現できてるかな。
山内:言ってしまえば、ループはもう第三セクターなわけだから、それをユーザーにも感じてもらえたら嬉しいよね。
岡井:アプリだけを見てたらまだ感じてもらえてないよね。例えば、「降りる時にポートを撮影して、綺麗に止めているか確認しなくてはいけない機能」は、ユーザーにとって利便性を一見阻害してるように思うかもしれない。でもそれによりポートが綺麗に使われるため、マンションの入り口の付近にポートを設置できることに繋がり、最終的にはユーザーにとって最もLUUPが使いやすくなるという前提で意思決定されたんだよね。
仮にユーザーの利便性を疎外しちゃう機能があったとしても、しっかり積み重ねていくことで、その先の未来のためにやってるということに気付いてくれると思ってて。時間はかかるけど、そうなりたいよね。
--後編へ続く--