WED代表の山内があらゆる業界のものづくりのプロたちを招き、彼らの半生や考えを聞き、議論することで、ものづくりをアップデートしていく『CHAKAI』。記念すべき第一回目のゲストは、WEDの茶頭を務める、株式会社TeaRoom 代表取締役の岩本涼さん。今後『CHAKAI』のレギュラーを務めていただく岩本さんと、『CHAKAI』の方向性について議論した前編に続き、後編では最近のトレンドやものづくりへのこだわりについて、話を聞きました。
host
山内 奏人
WED株式会社 代表取締役
guest
岩本 涼
株式会社TeaRoom 代表取締役/WED株式会社 茶頭
1997年生まれ、茶道家。裏千家での茶歴は14年を超え、現在は株式会社TeaRoom代表取締役を務める。サステイナブルな生産体制や茶業界の構造的課題に対して向き合うべく、静岡大河内地域に日本茶工場を承継し、裏千家より茶名を拝命。岩本宗涼として一般社団法人お茶協会が主催するTeaAmbassadorコンテストにて門川京都市長より日本代表/Mr.TEAに任命されるなど、「茶の湯文化× 日本茶産業」の切り口で活動中。2018年7月よりWED株式会社の茶頭を務める。
ものづくりはモノ消費からコト消費、そしてヒト消費へ
山内:岩本は最近何考えてもの作ってるの?
岩本:最近はね、ものづくりにおいてファクトだけを売る商売はもう終わりを迎えていると思ってる。「日本一の〇〇」とかって、ただ認知を獲得する手段に過ぎないんだよね。でもそれが行き過ぎて、ものづくりがアートではなく全てファクトを追っていくビジネスになっちゃってる気がする。確かに驚きではあるけれど、数値として日本一というファクトがあっても、ユーザーがそれを求めていないケースがあるんだよね。
ユーザーはファクトよりも、クリエイティブ(UI)とそれに紐づく心地良い体験(UX)、そしてそのプロダクトが持つストーリーに準ずるおいしさを求めていると思うから、それをどう作るかをもっと議論したいんだよね。
山内:すごいチープな言い方になってしまうけど、モノ消費からコト消費になったからだよね。ストーリーをしっかり作り込んで、ブランディングにめちゃめちゃお金をかけることでブランドが確立されたから、みんなが買うわけだよね。
岩本:最近のものづくりでは、ヒト消費がトレンドだよね。今って、プロダクトやサービスに対してストーリーが勝手に醸成されるんじゃなくて、ロードマップ上にストーリーを付与するという工程ができてしまってる。ストーリーが人為的につくられたものであるから、「人に紹介されて初めてその背景を知り、その文脈に共感して購入に至る」という経路になることは、ものすごく理解できる。
山内:純粋な口コミの世界だよね。
岩本:奏人くんの最近のものづくりはどんな感じ?
山内:最近寄付のアプリを作ってるんだけど、何かしらユーザーにアクションを起こしてもらえる仕組みを作りたいなって考えてる。例えば、何かを買ったら支払い金額に応じたクレジットがもらえて、それで寄付できるとか。月に1回、ユーザーに「そろそろ寄付しませんか?」とか通知もできたらいいよね。日本で寄付を民主化していかないといけないと思ってるんだよなあ。
岩本:寄付先を見つけるのが大変だもんね。でも寄付って、原体験に紐づいてしてる人たちがたくさんいるわけじゃん。地元だったり自分の原体験だったり、心から共感したものにお金使いたいと思うだろうし、地元で頑張ってる企業とか学校とかに寄付できるといいね。
山内:理想は、ものを買ったら自然と寄付できるような世界観。何か買ったらフェアトレードに関するチップがもらえて、どこかに寄付できるみたいな。マーケットプレイスにしていけたら面白いよね。
あとは、災害が起きたときに短期的にお金を集めて、各団体のやることが明確になった瞬間に割り振って支援していくとかもしたい。そういうのってスピードが大事だから、まさに僕たちが提供できる価値だよね。
「共通を共有」することで、サービスが生まれる
山内:岩本は新しいお茶を作る時、どんな風にして作ってるの?僕は割と日常的に事業を思い付く傾向にあるんだけど。
岩本:基本的にはマーケット主導で考えるようにしてる。僕らの会社はグループを組んでいて、東京本社はマーケットを分析して市場に受ける商品を製造部門に提案し、製造側はクラフトマンシップを持って誰にも負けないものづくりをするようにしてる。
市場で求められる商品と製造側でつくりたい商品ってほとんどの場合相反することが多いから、お互いがそのまま伝えるといつも喧嘩になてしまうんだ。だからこそ、本社の販売側は製造側の技術的ハードルを理解した上で提案し、製造側は無理だと言い切らず、最大限対応しながら開発していくようにしてる。伸びそうな事業があったら、その理由をちゃんと言語化して、製造側が納得して開発を始められるよう、細かくフィードバックしながら進めてくことを意識してるかな。
山内:プロデューサーがしっかり言語化する必要があるよね。うちも、ソフトウェアサービスなのに、工程表を作って製造業くらい丁寧にものづくりしてる。僕たちはそれを「台本」と呼んでるんだけど、前の工程が終わらないと次の工程にいけないの。そうすると、プロデューサーのコミュニケーションや言語化が重要なんだよね。ストーリーを書く人がちゃんとデザインやエンジニアに対してコミュニケーションとって言語化できてないと、途中でトラブルが起きたり想像以上に時間がかかったりするからね。
岩本:プロデューサーが言語化できないって、組織にとって致命的だもんね。
山内:最近ウイスキー紅茶開発してたじゃん。あれはなんで開発したの?
岩本:ノンアルコールの市場が大きくなると予測したから、アルコールの香りを纏ったノンアルコール飲料を作ろうとしたのが発端かな。より大きな市場を狙うためにリーフ(茶葉の状態で乾物流通させたもの)で作ろうとしたら、海外にコーヒーを樽熟成させた『スコッチウイスキーコーヒー』っていう商品があったから、日本でも試してみようとウイスキー紅茶を開発することになったんだよね。日本の蒸留所にある樽をなんとか譲ってもらって、今たくさんのウイスキー樽に常時お茶を熟成させてるよ。
山内:マーケットドリブンだよね。岩本はマーケット感覚がありつつ製造の感覚や状況を理解してるからそれが出来るんだなって思う。テクノロジーにデザインを入れていったように、お茶づくりにマーケットを入れていくのは新しいし、強い武器だよね。他には最近どんなことに興味があるの?
岩本:最近は「共通を共有」がキーワードかな。共通するものを共有することによって人は価値観を交換して理解し合い、相手を真に肯定できるようになると思ってる。その最たるものが喫茶で、共通のお茶文化を共有し合うことで、お互いの文化性を理解し合ったり、価値観の交換をしたりするんだよね。
それはものづくりにおいても同じで、相手との共通点を探した上で共通の文脈を作り、それをシェアすることによって新たなサービスやプロダクトが生まれるんだと思う。だから、同じ原体験や背景を共有することは、すごく大切だなって感じる。
山内:なんでそう思ったの?
岩本:最近リアルで会うことが珍しくなったから、羊羹を持ち歩いて対面する時には必ず渡すようにしてるの。みんな基本食べてくれるんだけど、そうすると必ずお茶が欲しくなるから、お茶の営業トークができるんだ(笑)。それって、羊羹を使ってお茶や季節など、共通の話題を共有する空間ができることで、自然に価値観の交換ができて相手の理解が進むからなんだよね。それで、「共通を共有すること」って改めてすごく大切だなって感じたんだ。それで最近は、お茶を売るために羊羹を作りたいって思い始めた。
山内:日本は北も南も砂糖を作れるし、各地方にその土地のお茶もあるから、ペアリングとかできそうだね。うち、地下に会議室を増設したから一部屋砂糖窟にしていいよ。それに、最近少しずつブランディングの依頼ももらえるようになってきたから、うちにその羊羹のブランディングやらせてよ(笑)。
岩本:いいね。一緒に羊羹作ろっか(笑)。
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